このブログを書いた発端は、アフリカの物に限らず、元々は宝貝が付いていた民具や装飾品の貝をわざわざ取りはずして、伝統的なものとして紹介する事に少し疑問があったからです。
最近、綺麗な宝貝が手に入った事もあり、西アフリカと宝貝の事を少しまとめてみました。
アフリカでの宝貝(カウリーシェル・子安貝)は様々な用途で使われてきました。
装飾としては古くより使われてきたのは、コンゴのクバの装身具や、カメルーンの内陸、エチオピア高地のオロモの背負い袋や容器などで、比較的内陸で多湿な限定的な地域だったそうです。内陸といってもカラハリ砂漠などの乾燥した地域では使われなかったそうです。
また、西アフリカでは交易を通してまず通貨として流通していき、その後、様々な装飾にも取り入れられました。
世界最古・最も広く使われた通貨、宝貝
宝貝の利用は紀元前16世紀から始まった古代殷王朝でみつかっています。黄色宝貝がハカに埋葬されており、財産として利用されたといわれます。西アフリカでは、14世紀にマリ帝国に訪れた探検家のイブンバトゥータが、宝貝が通貨として利用されている事を書いています。
17-18世紀に栄えたダホメー王国では、市場で宝貝がないと何も買えなかったそうです。
(ダホメー王国の宝貝についての詳細)
西アフリカで通貨として流通した宝貝は、モルジブ諸島からアフリカ経由でサハラ砂漠を横断し運ばれていったといわれます。
昨年アフリカに行った時ハウサの人が、ナイジェリア北の一部の地域では、貝殻が今でも地域通貨として使われているといっていて、実はその価値はまだ完全に失っていないようです。
宝貝の特徴と西アフリカでの通貨価値
きれいな白い貝殻は、通貨に必要なすべての特性を備えているといわれます。軽量で腐りにくく、取り扱いや輸送が簡単です。その形状は、即座に識別可能で、偽造が困難で、形状もサイズも均一に揃える事が出来て数えやすいです。
西アフリカで宝貝は、長い紐で40個ずつ束まとめられ、多額の支払いの場合、殻はバスケットに積み上げられました。
因みに、8世紀ころにアラブの商隊から西アフリカにもたらされた牛とと宝貝の交換レートは、大体このような感じだったようです。(牛は20世紀までの支払い手段、権力と富の象徴、今でも人気アイテムです。)
但し非常に大きな金額の場合、受け取った宝貝を運搬するのに、かなりの運搬(ポーター)費用が発生し、手に入れた貝を全て運搬費に使うこともあったそうで、そういった大規模の取引は、ハウサなどに代表される長距離交易を行う専門民族が行いました。
- 牛1頭=貝50束(40本×50束=2,000個)
- 奴隷一人=17世紀は貝1万個 奴隷の需要は時代とともに高まり、18世紀頃は貝15万個
交易に使われた宝貝
長い間宝貝は西アフリカ全体で流通し、銀貨・砂金・塩・金属のオブジェクト・腕輪のマニラ(Manilla)・布・ビーズなど、他の多くの通貨価値のあるものと共存していました。
また、ヨーロッパ人は、特定のアフリカの民族が小さな貝殻を好んでいることを知り、奴隷・金・象牙の取引に、貝殻の通貨を積極的に使用しました。
西アフリカでは長らく、こういった複数の通貨を使用することが一般的だったので、旧フランス領でフランを導入した後も通貨の統一に抵抗があったようで、しばらく宝貝はその価値を維持しました。
コンゴのクバ地域などでは、1940年代まで現役の通貨として使用されたといわれます。
通貨の併用が当たり前で、統一通貨を拒むあたり、多言語で多民族が共存するアフリカらしさを少し感じてしまいます。
宝貝、西アフリカの村での役割
小さな村では、外部との取引は長老たちの責任と特権でした。村人が生産した商品(過剰な穀物、養蜂からの蜂蜜、布、鍛造金属など)は外部の商人に販売され、収益は村の共通資金に保管されました。
高齢者は保管された通貨を使用して、地域社会のために道具、薬、牛などの必需品を購入しました。
村内での取引の多くは物々交換の形で行われ、通貨は殆ど使わなかったそうです。
宝貝文化はまだまだ続く
現代の西アフリカでは宝貝は通貨として機能していませんが、その文化の痕跡は残っています。ブルキナファソのワガドゥグーでは、貧しい人々にコインと宝貝を混ぜて渡す時があるといわれます。
ガーナの通貨「Cediセディ」は「宝貝」を意味するアカンの言葉で、1955年発行のガーナの20セディのコインには、宝貝が刻まれていました。
また、宝貝は丸みを帯びた曲線は妊婦のお腹を連想させ、生殖能力の象徴とされます。
貝殻のスリットは黒い瞳のように見えることがあり、邪眼を防ぐためにも使用されます。
装身具用のビーズとしてもよく使用され、ジュエリーに組み込んだり、髪に着けたり、彫像や仮面やバスケットを飾ったりします。
また、西アフリカの伝統的文化に欠かせない占いにも良く使用されます。
異文化の価値観
日本ではなじみの薄かった宝貝ですが、地域が変われば価値も変わります。
海が遠い内陸の民族は、アフリカだけでなく宝貝を美しさ・豊かさの象徴として扱ってきました。
今ではただの貝殻という扱いが一般的だと思うのですが、その背景や歴史を知ると、宝貝を使っている様々な民族装飾も一味違って見えてくるかもしれません。
参考文献『貝の道』
参考サイト http://www.nbbmuseum.be/en/2007/01/cowry-shells.htm