ヘビの貨幣や装身具 ブルキナファソの民話より

アフリカの多くの国では、ヘビは人間にとって大きな脅威となってきました。

人々は藪の中や倒木の下に潜み森や草の中を見えないように這っているヘビに日々遭遇し、一瞬にして命を失うことも少なくありませんでした。

そのため多くの人々の間でヘビは、非常に近くにいる、生まれ変わる生命力が強く(脱皮)、生き物の命を奪う、恐れるべき動物として神格化されてました。

 

パファダー毒蛇

ブルキナファソ南西からコートジボワール北東に住むロビ(Lobi))・ガン(Gan)の人々は、動物神話に由来するお守りや儀式の対象物を沢山作ってきた民族です。

その中でもヘビのモチーフは、彼らにとって特別な存在です。

※ガンとロビはとても近い民族で、ガンはロビのサブグループともいわれます。
どちらの民族もガーナ→ブルキナファソ⇔コートジボワールを移動した、分散的に住む民族です。

ブルキナファソ 民族分布
ブルキナファソの民族分布

 

ロビ・ガンには様々な神話や寓話がありますが、その中にヘビにまつわるガンの寓話があります。

ヘビの腕章と民話

ブルキナファソ南部からコートジボワール北東に住むガンの人々の小さな村では、田植えの忙しい季節は、まだ暗い早朝から家族みんなで農作業を行います。
やっと日が昇り明るくなり、みなで休息をとろうとしたその時、皆はガンの村の酋長の末っ子がいないことに気付きました。
農民たちは手分けして背の高い草や耕されていない畑を必死に探しました。
やがて、茂みのそばに座っている少年を見つけましたが、彼の足に巻きついているものを見て皆が血の気が引きました。
それは毒を持つ蛇パファダーが、その太い体を少年の膝の上に乗せていたからです。

 

ワガドゥグ農村1900-1930 photo source by USC Libraries
ワガドゥグ農村1900-1930 photo source by USC Libraries
アフリカパファダー
アフリカ パファダー

 

村人たちは蛇を刺激しないようにじっとしていましたが、蛇は大きな声で鳴き、大きな体をふくらませて威嚇しはじめました。
村人は皆危険を感じていました、それはこの蛇は、長い毒牙を瞬く間に突き出して日没には人を殺してまう毒を持っているからです。
酋長は息子に「動くな」と言いながら、他の人たちにゆっくりと後ろに下がるように指示しました。
そして、自分の上腕部に装着した真鍮製の大蛇のバンドを握ると、息子はそれに応えて足首に巻いた同じ様な小さなバンドに触れました。
息子は「彼(ヘビ)も僕のバンドが好きです」と言うと、ヘビは納得したような落ち着いた様子で、小さな三角の頭を少年のバンドに当てました。
すると数分後、ヘビはスルスルと逃げていき、少年は立ち上がり膝を拭き払い無事事なきを得ました。

 

ヘビ除けとして身に着けられた ロビ・ガンの腕章・腕輪・指輪

 

この奇跡的な話は瞬く間に村中に広まり、古い伝統は新たな活力とより信仰を呼び起こしたといわれます。

動物は単なるシンボルではなく、現世とあの世をつなぐ媒介者でもあり、神の使いの精霊とされる信仰も多いです。
特にヘビはロビ・ガンの人にとっては上位のトーテムとされています。

 

 

ロビ・ガンの人々は真鍮やブロンズ製の作品にヘビのモチーフの装飾y品・護符に加え、象徴的な通貨や祭壇に供える人形なども沢山作りました。
彼らの装飾品はより生き生きとした様式化されたものであり、時には抽象的な要素である複数の頭を持つものもありました。

ガン人はこれらの装飾品を家の魔除けにも使い、戦士やハンターは戦いの際の護符として、身につけていました。
またヘビは神の象徴とされ、蛇が大地に巻きついている姿は大地が崩れないようにする守り神ともいわれます。

 

信仰が物語を生むのか、それとも物語が信仰を刺激するのか

卵がさきかニワトリが先かのように、その答えは両方の様な気がします。
時折、勇気ある瞬間の物語が、伝統的な民間伝承と融合し、古い信念をより強化し神格化し、時には復活させることもあります。

ガンの酋長の息子の話は、蛇が恐れるべき動物であると同時に、神聖なシンボルであり、人々を守る存在であることを象徴しています。
また、最も危険な敵が最も強力な味方になり得ることを示す西アフリカで生きる知恵を含んだ物語のようにも思われます。

今は錆に覆われたこれらの鉄のオブジェクトは、そんな物語や知恵を視覚的に生活に取り入れた、生きた作品といえそうです。